大切な家族が危篤だと告げられると、悲しみで頭がいっぱいになります。それと同時に、これからの入院費や葬儀費用の支払いが不安になり、お金の心配をしてしまうのは当然のことです。この記事では、本人が動けないときに預金を引き出す方法や、後で困らないための注意点をわかりやすくお伝えします。
危篤時に本人の預金を引き出すことはできる?
「もしもの時にお金が足りなくなったらどうしよう」と不安になるのは、あなたが家族を大切に思っている証拠です。結論から言うと、本人が生きている間であれば、家族が代わりにお金を引き出すことはできます。ただし、銀行によってルールが細かく決まっているため、がむしゃらに動く前に正しいやり方を知っておくのが一番の近道です。
ATMを使って暗証番号で引き出す
ATMでの引き出しは、最も手軽で周りに気づかれにくい方法です。本人のキャッシュカードを預かっていて、暗証番号を知っているのであれば、家族が代わりに操作しても銀行側に止められることはありません。病院の近くのコンビニや銀行のATMから、必要な分だけをすぐに用意できるのが最大のメリットです。
ただし、ATMには1日に引き出せる金額に制限があることを忘れないでください。多くの銀行では1日の引き出し上限が50万円に設定されています。 葬儀費用などで100万円単位のまとまった現金が必要な場合は、数日に分けて引き出すか、窓口での手続きを考える必要があります。
- キャッシュカードと暗証番号があれば誰でも操作できる
- 1日の限度額(一般的に50万円)を確認しておく
- 土日や夜間でも現金を手元に用意できる
銀行の窓口で代理人が手続きする
ATMの限度額を超える金額が必要なときは、銀行の窓口へ行くことになります。窓口では「本人の使い走り」として手続きを進めることになりますが、本人に意識があるかどうかが大きな分かれ目です。銀行の担当者は、お金を下ろすことが本人の意志であるかどうかを厳しくチェックします。
窓口での手続きには、本人が書いた委任状と通帳、そして登録してある印鑑が必要です。本人の名前が自筆で書かれていない委任状は、法的に認められないケースが多いので注意しましょう。 手続きには時間がかかることも多いため、時間に余裕を持って平日の15時までに行くようにしてください。
- 窓口ならATMの限度額以上の金額を引き出せる
- 本人の自筆サインが入った委任状が必須となる
- 手続きには1時間以上かかることを覚悟しておく
本人の意識がない場合に注意すること
本人の意識がすでになく、サインをもらうのが難しい状態のときは注意が必要です。銀行側に「意識がありません」と正直に伝えてしまうと、本人の財産を守るために口座が凍結されてしまう恐れがあります。そうなると、家族であっても簡単にはお金を引き出せなくなってしまいます。
このような場合は「成年後見制度」という仕組みを使うことになります。家庭裁判所に申し立てをして、財産を管理する人を選んでもらう手続きです。ただし、この手続きには数ヶ月かかることもあるため、急ぎの支払いには間に合わないことがほとんどです。 意識があるうちに、最低限の準備をしておくことが大切です。
- 意識がないとわかると銀行が口座を止めることがある
- 成年後見制度は手続きに時間がかかりすぎる
- 意識がはっきりしているうちに委任状をもらっておく
銀行の窓口で預金を引き出すときに必要な書類
窓口でお金を下ろすのは、普段自分のお金を下ろすときとは勝手が違います。必要なものが1つでも足りないと、二度手間になって病院と銀行を往復することになり、とても疲れてしまいます。ここでは、これさえ持っていけば安心という必須アイテムをまとめました。
銀行指定の委任状と届け出印
まずは、銀行が用意している「委任状」の用紙を手に入れましょう。銀行のホームページからダウンロードできることが多いですが、分からなければ窓口でもらえます。これに本人が「誰に、いくらの引き出しを任せるか」を記入し、通帳を作ったときの印鑑(届け出印)を押す必要があります。
印鑑を間違えると手続きが一切進みませんので、事前に通帳のケースなどに入っているか確認してください。シャチハタなどのゴム印では受付てもらえません。 朱肉を使って押すタイプの、本物の印鑑を用意してください。
- 銀行ごとの指定フォーマットを使うのが最も確実
- 本人の自筆サインと正しい届け出印を用意する
- 白紙の委任状に印鑑だけ押しておくのはトラブルの元
窓口に行く人の身分証明書
代理人として窓口に行くあなたの身分を証明するものも、絶対に忘れてはいけません。銀行は「本当に家族が下ろしに来ているのか」を厳重に確認します。顔写真がついている証明書であれば、1点だけで済むことが多く、手続きもスムーズに進みます。
最も確実なのは、運転免許証やマイナンバーカードです。 もし写真付きの証明書がない場合は、健康保険証と年金手帳など、2つの書類を組み合わせて提示する必要があります。今のうちに財布の中に免許証が入っているか、有効期限が切れていないかをチェックしておきましょう。
- 運転免許証やマイナンバーカードなど顔写真付きがベスト
- 健康保険証を使う場合はもう1つ別の書類を求められる
- 住所が現在のものと一致しているか確認しておく
本人との関係がわかる戸籍謄本
大きな金額を引き出す場合や、銀行から求められた場合には、本人との家族関係を証明する書類が必要になります。これは「私はこの人の子供です」という客観的な証拠を示すためです。住民票でも代用できることがありますが、より確実なのは戸籍謄本です。
戸籍謄本は本籍地がある役所でもらえます。最近ではマイナンバーカードがあればコンビニのコピー機で発行できる自治体も増えています。 平日の昼間に役所へ行く時間がない人は、コンビニでの発行が可能かどうかを調べておくと、いざという時に慌てずに済みます。
- コンビニ交付なら夜間や休日でも手に入る場合がある
- 「全部事項証明書」という名称のものを選べば間違いない
- 発行から3ヶ月以内の新しいものを用意する
危篤時の預金引き出しでATMを使うときの制限
窓口に行く時間がなかったり、手続きが面倒だったりするときはATMが便利ですよね。でも、いざATMの前に立ってから「あれ?下ろせない」となると、後ろに並んでいる人の視線も気になって焦ってしまいます。ATMを賢く使うためのルールを、友達に教えるような感覚でお伝えします。
1日に引き出せる金額の上限
ATMには防犯のために「1日にこの金額までしか出しません」という壁があります。多くの銀行では、何も設定を変えていなければ1日50万円が上限です。もし葬儀の予備費として200万円用意したいなら、4日間に分けて通う必要があるということですね。
この限度額は、窓口で手続きをすれば引き上げることができます。しかし、本人が動けない状態では限度額の変更も難しいため、今の設定金額で何日かかるかを計算しておきましょう。 急ぎでまとまったお金が必要なときは、早めに動き出すのがコツです。
- 標準的な設定は1日50万円まで
- 引き出し回数ではなく、合計金額で計算される
- 大きな金額は数日に分けて計画的に引き出す
暗証番号を間違えたときのロック
意外と多い失敗が、暗証番号の打ち間違いです。「たぶんこれだったはず」と適当に打ってしまうのは絶対にやめてください。銀行のシステムはとても厳しく、3回ほど連続で間違えるとカードにロックがかかり、二度と使えなくなってしまいます。
ロックがかかってしまうと、たとえ本人が危篤でも、窓口で複雑な解除手続きをしなければなりません。本人の確認が取れないとカードの再発行すらできないため、お金が完全に引き出せなくなる最悪の事態になりかねません。 番号に自信がないときは、無理に操作せず、別の方法を考えましょう。
- 3回間違えるとカードが使えなくなる
- ロック解除には本人の確認や再発行の手続きが必要
- うろ覚えの番号で何度も試すのは非常に危険
代理人カードを作っておくメリット
もし、まだ本人に少し余裕があるなら「代理人カード」を作っておくのがおすすめです。これは、本人の口座から家族が引き出せる専用のカードのことです。これがあれば、わざわざ本人のカードを持ち歩く必要がなくなり、家族が自分のカードと同じように堂々とATMを使えます。
代理人カードは、生計を共にしている家族であれば作れる銀行が多いです。発行までに1週間から10日ほどかかるため、今すぐには使えませんが、将来の備えとしては最強のツールになります。 銀行の窓口で「家族用のカードを作りたい」と相談してみてください。
- 家族が自分の名前で操作できる専用カード
- 本人のカードを持ち出すリスクを減らせる
- 発行には時間がかかるので早めの準備が必要
親族とのトラブルを避けるための運用のコツ
お金の話は、どれだけ仲の良い家族でも揉める原因になります。あなたが良かれと思ってやった引き出しが、後で他の親族から「勝手にお金を使い込んだ」と疑われてしまったら悲しいですよね。そんな悲劇を防ぐために、透明性を高める工夫を紹介します。
引き出したお金の使い道をメモする
「何月何日にいくら下ろして、何に使ったか」を、1冊のノートにまとめておきましょう。これは自分を守るための大切な記録になります。後で相続の話になったときに、このメモがあるだけで、親戚からの追求をサラッとかわすことができます。
どんなに小さな買い物でも、本人のために使ったなら書いておいてください。「10月1日 タクシー代(病院往復) 3,000円」といった具合に、誰が見てもわかるように書くのがコツです。 記録が残っているという事実だけで、周りからの信頼度はグッと上がります。
- 日付、金額、使い道をセットで記録する
- 専用のノートを1冊作り、それ以外には書かない
- 「本人のために使った」と証明できるようにする
医療費や入院費の領収書を捨てない
お金を支払った際にもらう「領収書」や「レシート」は、最強の証拠書類です。どんなに細かいものでも、絶対に捨てずに保管しておいてください。病院の売店で買ったオムツ代や、介護用品のレシートもすべて対象です。
これらは、税務署への説明だけでなく、親族への報告にも役立ちます。バラバラにならないよう、1ヶ月ごとにクリアファイルや封筒にまとめておくと管理がラクになります。 領収書がないような心付けなどの場合は、メモを残しておくだけでも違います。
- レシート1枚も捨てずに封筒にまとめておく
- 医療費控除の確定申告でもそのまま使える
- 最低でも5年から7年は保管しておくのがルール
兄弟や親戚に事前に相談しておく
「今、お父さんの口座から入院費として10万円下ろしたよ」と、兄弟や親戚にこまめに連絡を入れておきましょう。事後報告ではなく、できれば下ろす前に「今から下ろしに行くけどいいよね?」と確認をとるのがベストです。
一人で抱え込んでしまうと、「あの人が勝手にやっている」と誤解を招きやすくなります。LINEのグループなどで情報を共有しておけば、証拠としてメッセージも残るので一石二鳥です。 協力してくれている親戚には、感謝の言葉も忘れずに添えましょう。
- 大きな金額を動かすときは必ず事前に相談する
- LINEなどの履歴が残る方法で報告する
- 「みんなの総意」で動いている形を作る
危篤時に引き出したお金にかかる税金のルール
お金を下ろすときに気になるのが税金のことですよね。「勝手に下ろすと罰金があるの?」と不安になるかもしれませんが、基本的には「本人のために使う」のであれば、多額の税金が急にかかることはありません。ただし、知らないと損をするルールが2つだけあります。
110万円を超えたときにかかる贈与税
もし本人の口座からお金を移して、そのまま自分のものにしてしまった場合、それは「贈与」とみなされます。年間で110万円を超えるお金をもらうと、贈与税という税金を払わなければなりません。
「入院費の予備として自分の口座に入れておこう」という親心であっても、110万円を超えると税務署から目をつけられる可能性があります。本人の口座から下ろした現金は、自分の口座に移さず、そのまま現金として管理するか、使った証拠をしっかり残しましょう。 あくまで「預かっているだけ」という姿勢が大切です。
- 年間110万円を超えると税金がかかる可能性がある
- 自分の口座に移すと「もらった」と判断されやすい
- 「管理しているだけ」であることを明確にする
亡くなる直前の引き出しと相続税の関係
亡くなる直前に引き出したお金は、たとえ手元に現金として持っていたとしても、相続税の対象になります。銀行からお金が消えても、国は「消えた分も財産だよね」としっかりカウントしてきます。
税務署は亡くなる直前3年から7年の銀行口座の動きを詳しくチェックします。 「バレないだろう」と思って隠しても、高確率で見つかってしまうので注意が必要です。正しく申告すれば怖いことはありませんので、隠さずオープンにしておくのが一番の節税対策です。
- 引き出した現金も相続財産としてカウントされる
- 税務署は数年分の通帳の動きをすべて把握する
- 隠そうとすると逆に重いペナルティが課される
税務署から疑われないための証拠作り
税務署に「これは生活費に使いました」と自信を持って言えるように、やはり証拠作りが欠かせません。具体的には、引き出した金額と、支払った領収書の合計金額を一致させておくことです。
もし、30万円引き出したのに、領収書が10万円分しかないとなると、残りの20万円は「誰かのポケットに入った」と疑われてしまいます。使い切れなかった分は、正直に「手元に現金で残っている」と報告できるようにしておきましょう。 真面目に対応することが、結局は一番おトクになります。
- 引き出した額と使った額のつじつまを合わせる
- 余った現金は「手元現金」として正直にメモする
- 不明金を作らないことが最大の防衛策になる
亡くなった後に預金を引き出すための仮払い制度
もし危篤の間に引き出せなかったとしても、今は「預貯金の払戻制度」という便利な仕組みがあります。以前は亡くなった瞬間に口座が完全に止まってしまいましたが、2019年からルールが変わり、葬儀費用くらいならすぐに下ろせるようになりました。
150万円までなら他の親族の同意なしでOK
この制度を使えば、他の相続人のハンコをもらわなくても、1つの銀行につき最大150万円まで引き出すことができます。葬儀費用や、当面の生活費に困ったときには本当に助かる制度です。
引き出せる金額は「亡くなった時の残高 × 3分の1 × 自分の相続分」という計算で決まります。 150万円はあくまで上限ですが、急場をしのぐには十分な金額であることが多いです。銀行の窓口で「仮払い制度を使いたい」と伝えれば、案内してもらえます。
- 1つの金融機関から最大150万円まで引き出せる
- 他の親族に内緒で(同意なしで)手続きできる
- 葬儀費用や急ぎの支払いに特化した制度である
制度を利用するために必要な書類
仮払い制度を利用するには、本人が亡くなったことを証明する書類が必要です。窓口には、以下の3点を持っていきましょう。これらがあれば、銀行は速やかに手続きを進めてくれます。
- 本人の除籍謄本(亡くなったことが書かれた戸籍)
- 相続人全員がわかる戸籍謄本
- 手続きに来る人の印鑑証明書
役所での手続きが少し大変ですが、これさえ揃えば、他の親族と話し合う前にお金を手にすることができます。 焦って喧嘩をする前に、まずは必要書類を揃えることに集中しましょう。
- 本人が亡くなった事実を証明する書類が必要
- 自分の身分と相続人であることを証明する
- 書類が揃っていれば銀行は拒否できない
お金を受け取れるまでにかかる日数
書類を提出してから実際にお金を受け取れるまでは、数日から1週間程度かかるのが一般的です。その場ですぐに現金が出てくるわけではないので、葬儀社への支払い期限などを確認しておきましょう。
銀行によって手続きのスピードは違いますが、大手銀行であれば比較的スムーズに進みます。 逆に、地域の信用金庫などは少し時間がかかることもあるため、早めに必要書類を聞きに行っておくのがスマートなやり方です。
- 即日ではなく数日かかるケースが多い
- 支払い期限から逆算して早めに申請する
- まずは取引のある銀行に電話で相談する
危篤時の預金トラブルを防ぐために今すぐできる準備
「まだ大丈夫」と思っている間に、できる限りの準備をしておきましょう。危篤になってからでは、本人の意志を確認することも、書類を探すことも難しくなります。今この瞬間から始められる、3つの備えを紹介します。
通帳と印鑑の保管場所を共有する
まずは、どこに通帳があって、どの印鑑が「届け出印」なのかを確認してください。これさえ分かれば、いざという時の動き出しが10倍速くなります。普段は本人が管理している場合でも、場所だけはこっそり教えてもらっておきましょう。
古い通帳や、今は使っていない印鑑が混ざっているとパニックになります。 今のうちに整理して、「これが必要なセットだよ」と家族で共有しておくだけで、精神的なゆとりが全く違います。
- 通帳と印鑑はセットでわかりやすく保管する
- 不要な印鑑は別の場所に片付けておく
- 場所を共有する人は、信頼できる家族に絞る
ネット銀行のログイン情報を整理する
最近はネット銀行を使っている方も多いですよね。でも、スマホのロックがかかっていたり、パスワードがわからなかったりすると、ネット銀行のお金は「存在しない」のと同じになってしまいます。
ログインIDやパスワード、秘密の質問の答えなどを、紙に書いて金庫や通帳ケースに入れておきましょう。 デジタル遺品の問題は、今の時代、最も解決が難しいトラブルの1つです。本人が元気なうちに、メモを残してもらうようお願いしてみてください。
- スマホのロック解除番号も忘れずにメモする
- IDとパスワードはセットで紙に残しておく
- ログイン用のトークン(機械)の場所も確認する
葬儀費用をあらかじめ別の口座に分けておく
もし本人に相談できるなら、葬儀費用として必要な100万円から200万円程度を、あらかじめ「家族の口座」に移しておくのが一番安心です。これを「葬儀の予備費」として明確にしておけば、口座凍結を恐れる必要もありません。
もちろん、これは本人の了解を得て行うことが大前提です。「もしもの時にみんなが困らないように、預かっておきたい」と正直に伝えれば、本人も納得してくれるはずです。 家族みんなが安心できる環境を、今のうちに作っておきましょう。
- まとまった現金をあらかじめ家族名義の口座へ移す
- 「葬儀用」として使い道を家族全員で共有する
- 本人の同意を得て、正式な「預かり金」とする
まとめ:危篤時の不安をお金で広げないために
大切な家族の最期が近づく中でお金の心配をするのは、不謹慎なことではありません。むしろ、残された家族が困らないように準備するのは、とても立派なことです。この記事で紹介した方法を参考に、一歩ずつ進めていきましょう。
- 本人が生きている間ならATMや委任状で引き出せる
- 窓口では本人の自筆サインがある委任状が必須
- 1日の引き出し限度額(通常50万円)を意識して動く
- トラブル防止のために領収書とメモは必ず残す
- 110万円を超える贈与や相続税のルールに注意する
- 亡くなった後でも150万円までは仮払い制度で下ろせる
- 今のうちにパスワードや印鑑の場所を確認しておく
お金の不安が少しでも軽くなれば、その分、残された時間を家族との大切な対話に使うことができます。あなたはもう十分に頑張っています。無理をせず、使える制度はしっかり使って、後悔のない時間を過ごしてくださいね。
