故人様が好きだったあの曲で、最後のお別れを彩りたい。そんな想いを実現する「音楽葬」が注目されています。
しかし、音楽葬の選曲や著作権について、「好きな曲を自由に流していいの?」「JASRACへの手続きは?」といった不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
音楽葬は、形式にとらわれず、故人様らしさを音楽で表現できる葬儀スタイルです。クラシックやポップス、歌謡曲など、故人様が生前愛した音楽で送ることで、参列者の心にも温かい思い出が刻まれます。
しかし、その「選曲」と「著作権」には、知っておくべきルールがあります。知らずに進めてしまうと、思わぬトラブルや、手続きの漏れで後悔することにもなりかねません。
この記事では、音楽葬の選曲で失敗しないためのポイントと、複雑に思える著作権の問題を分かりやすく解説します。
この記事でわかること
- 音楽葬における著作権(JASRAC)の基本的な扱い
- CD再生や生演奏など「演奏方法」による手続きの違い
- 故人らしさを引き出す選曲の具体的なコツと注意点
- 安心して音楽葬を行うための葬儀社への相談ステップ
音楽葬の選曲と著作権:CDや生演奏は自由に流せる?

音楽葬を検討する際、多くの方が最初に直面する疑問が「著作権」です。故人が愛した曲を流すだけなのに、なぜ手続きが必要なのでしょうか。
作詞家、作曲家、アーティストなどの権利を守るため、公共の場で音楽を利用する際には、原則として著作権管理団体(JASRACなど)への申請と使用料の支払いが必要となります。
結論:葬儀社を通せば著作権問題はほぼクリア
結論から言えば、ほとんどの場合、遺族が個別に著作権の手続きをする必要はありません。
信頼できる葬儀社に音楽葬を依頼すれば、葬儀社側で必要な著作権処理を代行してくれるケースが一般的です。
なぜ葬儀社なら安心? JASRACとの包括契約
多くの葬儀社や葬儀ホールは、JASRAC(日本音楽著作権協会)と「葬儀での音楽利用」に関する包括契約を結んでいます。
この契約により、その葬儀社が執り行う葬儀(音楽葬含む)において、JASRACが管理する楽曲をBGMとして使用(CD再生や生演奏)する際の使用料や手続きが、葬儀社によって一括で処理されます。
遺族は、どの曲を使いたいかを葬儀社に伝えるだけで、複雑な著作権の手続きを気にすることなく、故人様を偲ぶ選曲に集中できるのです。
要注意:著作権手続きが「必要」になる2つのケース
それは「①特定の条件での個人手配」と「②自作CDの配布」です。
ケース1:個人手配の葬儀(演奏権)
ご自宅や集会所などで、葬儀社を介さず個人で葬儀(お別れ会)を手配する場合、JASRAC(日本音楽著作権協会)との包括契約は適用されません。
ただし、ほとんどの個人手配の葬儀では、JASRACへの申請や使用料の支払いは「不要」です。
これは、著作権法第38条1項で「非営利の演奏」が認められているためです。以下の3つの条件をすべて満たせば、自由に音楽(CD再生やBGM)を流すことができます。
- 営利を目的としていない(葬儀は営利目的ではありません)
- 聴衆から料金(入場料・会費など)を受け取らない
- 演奏者(実演家)に報酬が支払われない(CD再生はこれに該当します)
【例外】個人手配でも申請が「必要」になる場合
上記の3条件から外れると、申請と使用料(イベント利用料)が必要になります。
- プロの演奏家を雇い「報酬」を支払って生演奏を依頼する場合(※「お礼(謝礼)」であっても、実質的な対価とみなされるとNGです)
- 参列者から「会費」や「入場料」を徴収する「お別れ会」にする場合
これらに該当する場合は、JASRACのオンライン窓口「J-OPUS」または支部窓口にて、開催日の原則5日前までに「イベント利用」としての申請手続きが必要です。
ケース2:参列者への「自作CD・DVD」配布(複製権)
これが最も注意が必要なポイントです。
故人が好きだった曲を集めた「オリジナルのCD」や、思い出の写真をまとめた「スライドショーDVD」(BGM入り)を作成し、参列者への返礼品として配布したい、と考える方もいらっしゃいます。
この行為は、葬儀で音楽を流す「演奏権」とは全く異なり、「複製権」という権利の侵害にあたる可能性が非常に高くなります。
なぜ「複製権」の手続きは難しいのか?
音楽CDの「複製(コピー)」には、2種類の権利が関わっています。
楽曲の権利(JASRACなど)
作詞家・作曲家の権利です。JASRACに「複製利用」の申請と使用料(1曲あたり約5〜7円など規定あり)の支払いが必要です。
音源の権利(レコード会社など)
- CDに収録されている「音源そのもの」の権利(=著作隣接権)で、アーティストやレコード会社が持っています。
- こちらの手続きが非常に煩雑です。JASRACとは全く別の窓口(各レコード会社)へ個別に許諾申請が必要となります。
葬儀社がJASRACと結んでいる「包括契約」は、あくまで「演奏権」に関するもの。「複製権」は完全に別物です。個人が非営利目的で数枚コピーするだけであっても、「私的利用の範囲」(家族内など)を超えて「参列者」という他人に配布する時点で、原則として両方への許諾が必要となり、現実的な手続き・費用(特にレコード会社への許諾料)の面から、自作CD・DVDの配布は避けるのが賢明です。
音楽葬で後悔しない選曲のポイント

著作権の問題がクリアできたら、次は「どの曲を選ぶか」です。音楽葬の核となる選曲で失敗しないためのポイントをご紹介します。
故人の「一番好きだった曲」を軸にする
最も大切なのは、故人様がどのような音楽を愛していたかです。「この曲を聴くと、あの人らしい」と誰もが思えるような、象徴的な曲を1〜2曲選びましょう。それが音楽葬全体のテーマとなります。
参列者がリラックスできるBGMを選ぶ
故人様の好きな曲が、もし激しいロックやアップテンポな曲ばかりだった場合、葬儀の場にふさわしいか悩むかもしれません。
その場合、故人を象徴する曲は「献花」や「出棺」など特定のシーンで使い、その他の時間(開式前、歓談中など)は、参列者が故人を静かに偲べるよう、故人が好んだアーティストの「バラード曲」や、落ち着いた「クラシック」「インストゥルメンタル(歌なし)」を選ぶのがおすすめです。
宗教・宗派のルールも確認(特に寺院の場合)
音楽葬は「無宗教形式」で行われることが多いですが、寺院での法要と組み合わせて行うことも可能です。
ただし、寺院や宗派によっては、読経の妨げになるとしてBGM利用に制限がある場合や、特定の楽曲(歌詞の内容など)がふさわしくないと判断される場合があります。仏式で行う場合は、必ず事前に菩提寺の僧侶や葬儀社へ相談しましょう。
【シーン別】音楽葬でおすすめの選曲リスト例
具体的にどのような曲が選ばれているのか、シーン別の定番例をご紹介します。
故人を偲ぶ定番クラシック
- G線上のアリア(バッハ)
- カノン(パッヘルベル)
- アヴェ・マリア(シューベルト/グノー)
- 別れの曲(ショパン)
心に残る邦楽・ポップス
- 川の流れのように(美空ひばり)
- 糸(中島みゆき)
- ありがとう(いきものがかり)
- 千の風になって(秋川雅史)
- 涙そうそう(夏川りみ)
想い出の洋楽・映画音楽
- マイ・ウェイ(フランク・シナトラ)
- イエスタデイ・ワンス・モア(カーペンターズ)
- タイム・トゥ・セイ・グッバイ(サラ・ブライトマン)
- 映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマ
音楽葬の「演奏方法」と「費用・著作権」の具体的な違い
音楽葬で故人様を偲ぶ曲を流す方法は、大きく3つあり、それぞれ費用感と著作権の扱いが異なります。
ケース1:CD・ダウンロード音源の再生 (費用:◎)
最も一般的で、追加費用0円で実施できる方法です。
故人様がお持ちだった市販のCDや、ご遺族が購入(ダウンロード)したMP3などの音源データを、葬儀社の音響設備で再生します。
著作権(JASRAC)
CDや音源の再生は、法律上「演奏」にあたります。
JASRACと包括契約を結んでいる葬儀社・斎場であれば、使用する楽曲がJASRAC管理曲であっても、遺族側での申請や追加費用は一切不要です。
音源の注意点
サブスク(ストリーミング)はNG:Spotify, Apple Music, YouTube Musicなどの個人向けサブスクリプションサービスは、利用規約で「個人的な利用」に限定されています。葬儀という公の場で再生することは規約違反となるため、使用できません。
確実な方法:「市販されているCDの現物」または「iTunes StoreやAmazon Musicなどで購入済みのダウンロード音源ファイル(MP3など)」を準備し、葬儀社に渡すのが最も安全です。
ケース2:プロや知人による生演奏 (費用:△or○)
ピアニスト、ヴァイオリニスト、ギタリスト、聖歌隊などに依頼し、その場で演奏してもらう方法です。生の音ならではの臨場感と感動が生まれます。
著作権(JASRAC)
これも「演奏」にあたるため、JASRAC包括契約済みの葬儀社であれば、楽曲(楽譜)に対する著作権手続きは不要です。
費用(これが一番の差)
プロに依頼する場合(費用:△)演奏者への「依頼料(実費)」が別途発生します。これは葬儀プランには含まれていません。【費用相場】 演奏者1名あたり 50,000円〜150,000円程度(楽器の種類、拘束時間、演奏者のキャリアによって変動します)
知人に依頼する場合(費用:○)ご友人やご親族に演奏してもらうケースです。この場合、「報酬」を支払うかで扱いが変わります。
無償(ボランティア)で弾いてもらう: 「非営利・無料・無報酬」の条件が満たされ、JASRACへの申請は不要です。
「謝礼」を渡す: これが実質的な「報酬」とみなされた場合、JASRACへの手続きが必要になります(通常は葬儀社の包括契約でカバーされます)。
ケース3:著作権フリー音源の利用 (費用:◎)
葬儀社があらかじめ用意している「著作権フリー(ロイヤリティフリー)」の音源ライブラリ(ヒーリングミュージック、クラシックアレンジなど)を利用する方法です。
著作権(JASRAC)
- 著作権そのものが発生しないか、すでに処理済みのため、JASRACへの手続きは一切不要です。
- 費用もかからないことが一般的です。
メリットとデメリット
- メリット: 著作権の心配がゼロという絶対的な安心感があります。
- デメリット: あくまで「BGM」であり、故人様が生前愛した「特定のあの曲」を流すことはできないため、「故人らしさ」の表現は難しくなります。
音楽葬に関するよくある質問(FAQ)
Q. 音楽葬の費用は、通常の葬儀と比べてどのくらい変わりますか?
A. 音楽葬自体に追加費用はかからないことがほとんどです。ただし、プロの生演奏者を呼ぶ場合は、その実費(数万円〜)が別途かかります。CD再生のみであれば、一般的な葬儀費用と変わりません。
Q. キリスト教や仏教など宗教儀礼と組み合わせられますか?
A. 可能です。キリスト教式であれば賛美歌やオルガン演奏、仏式であれば読経の合間にBGMを流すなど、柔軟に対応できます。ただし、前述の通り、寺院や教会によっては制限があるため、事前の相談が必須です。
Q. 音楽葬を希望したら、親族に反対されました。どう説得すればよいですか?
A. 音楽葬がまだ一般的でない地域では、「葬儀らしくない」と抵抗を感じる方もいらっしゃいます。「故人が生前、この曲が大好きだったから」「故人の希望だった」と、選曲の理由や故人の遺志を丁寧に説明することが大切です。
Q. 著作権手続きを自分で行う方法は?
A. 葬儀社を介さない場合、JASRACの公式サイトから「BGM利用(演奏)」の手続きを行う必要があります。利用する施設(会場)の面積や日数に応じて使用料が算出されますが、手続きが煩雑なため、葬儀社に一任するのが最も安全です。
Q. 生演奏を依頼する場合の相場は?
A. 演奏者のキャリアや楽器(ピアノソロ、弦楽四重奏など)によって大きく異なりますが、1名あたり5万円〜15万円程度が相場とされています。葬儀社が提携している演奏者を手配するのがスムーズです。
まとめ:音楽葬の選曲と著作権は葬儀社への相談が鍵
音楽葬の選曲と著作権に関する重要なポイントをまとめました。
- 音楽葬の選曲で著作権(JASRAC)を気にする必要は基本ない
- 理由は葬儀社や葬儀ホールがJASRACと包括契約を結んでいるから
- 市販のCD再生やダウンロード音源の利用も問題ない
- プロによる生演奏も包括契約の範囲内で可能(演奏者費用は別途)
- 遺族が個別に著作権の手続きをする必要はほとんどない
- 例外は葬儀社を介さない個人手配の葬儀
- 参列者に自作の曲入りCDやDVDを配布するのは「複製」にあたり別途申請が必要
- 選曲は故人が一番好きだった曲を軸に考える
- 参列者への配慮として落ち着いたBGMも用意する
- 寺院など宗教儀礼と組み合わせる場合は事前に僧侶へ相談する
音楽葬の選曲や著作権について不安に思うかもしれませんが、最も重要なのは「故人様をどのような形でお送りしたいか」というご遺族の気持ちです。
その気持ちを形にするため、音楽葬の実績が豊富な葬儀社に相談することが、成功への一番の近道です。著作権の処理はもちろん、故人様の人柄が伝わるような選曲のアドバイスや、音響設備の準備まで、すべてを安心して任せることができます。
故人様との最後の時間を、心に残る温かいメロディーで満たしてあげてください。
