大切な方との突然のお別れ。深い悲しみの中で、葬儀の準備を進めなければなりません。
その過程で「エンバーミング」という言葉を初めて耳にし、戸惑いや不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「故人をできるだけ生前のきれいな姿で見送りたいけれど、具体的に何をするの?」
「費用はどれくらいかかるの?」
「処置の流れや、メリット・デメリットもわからなくて不安…」
この記事では、エンバーミングの基本的な意味から、具体的な費用相場、処置の流れ、そして知っておくべきメリットや注意点まで、専門的な内容を分かりやすく解説します。この情報が、皆様が後悔のないお別れを迎えるための一助となれば幸いです。
この記事でわかること
- エンバーミングとは、ご遺体の衛生保全・修復・化粧を行う専門技術であること
- エンバーミングにかかる費用の相場(約15万円~25万円)とその内訳
- ご依頼から処置完了までの具体的な流れ(4つのステップ)
- エンバーミングを選ぶメリットと、知っておくべき注意点
エンバーミングとは?費用の目安や処置の流れをわかりやすく解説

大切な方を亡くされた直後、葬儀社との打ち合わせで初めて「エンバーミング」という選択肢を知る方は少なくありません。
エンバーミングとは?単なる化粧とは違う「衛生保全」技術
エンバーミング(Embalming)とは、日本語で「遺体衛生保全」と訳されます。
専門的な知識と技術を持った「エンバーマー」と呼ばれる資格者が、ご遺体に防腐・殺菌・修復・化粧などの処置を施すことです。
ご遺体を「生前の元気な姿」に近づける処置
エンバーミングの最大の目的は、故人様を生前のお元気だった頃のお姿に近づけ、安らかに保つことです。
- なぜ必要か:ご遺体は、残念ながら時間の経過とともに変化(腐敗)が始まります。また、闘病生活が長かったり、事故に遭われたりした場合、お顔や体にその影響が残ることがあります。
- どうなるか:エンバーミングを施すことで、ご遺体の腐敗を遅らせ、感染症のリスクを防ぎます。さらに、やつれたお顔をふっくらとさせたり、生前の穏やかな表情に戻したりする修復も行います。これにより、ご遺族は安心して故人様と触れ合い、心ゆくまでお別れの時間を過ごすことができます。
遺体修復(エンゼルケア)との違い
エンバーミングとよく似た言葉に「エンゼルケア(死後処置)」があります。この二つは目的と内容が大きく異なります。
| 比較項目 | エンバーミング | エンゼルケア(死後処置) |
| 目的 | 長期的な衛生保全、修復、化粧 | ご逝去直後の簡易な処置、清拭、化粧 |
| 内容 | 外科的処置(消毒液の注入など)を含む | 身体の清拭、着替え、簡易な化粧(腐敗防止効果は低い) |
| 保全期間 | 約10日~2週間(環境による) | 1~2日(ドライアイス併用が必須) |
| 担当者 | 専門資格者(エンバーマー) | 看護師、葬儀社スタッフ |
| 場所 | 専用の処置室(エンバーミングセンター) | 病院、ご自宅、斎場 |
エンゼルケアが主に表面的なケアであるのに対し、エンバーミングはご遺体の内部から保全を行う、より専門的で高度な技術と言えます。
エンバーミングを選ぶ5つの主な理由(メリット)

エンバーミングは、すべての方に必須の処置ではありません。しかし、特定の状況下ではご遺族にとって非常に大きなメリットをもたらします。
1. 故人様のお顔が安らかになり、生前の姿を取り戻せる
闘病生活でやつれてしまったお顔や、事故などで損傷を受けた場合でも、エンバーミングの修復技術により、生前のふくよかさや穏やかな表情を取り戻すことが可能です。「最後に見た顔が辛そうだった」という記憶ではなく、「安らかな顔だった」という温かい記憶として故人様を心に留めることができます。
2. 感染症のリスクを防ぎ、衛生的に保てる
ご遺体は、病原菌の有無に関わらず、時間とともに細菌が繁殖しやすくなります。エンバーミングは全身の消毒・殺菌処置を行うため、感染症のリスクを限りなく低くすることができます。ご高齢の方や小さなお子様、妊娠中の方がいるご家庭でも、安心して故人様に触れたり、お顔を近づけたりすることができます。
3. 葬儀までの時間をゆっくりと確保できる(ドライアイス不要)
エンバーミングを施すと、長期間のご遺体保全が可能になります(一般的に約10日~2週間)。そのため、以下のような場合に非常に有効です。
- 「火葬場の予約が混んでいて、葬儀まで1週間以上待たなければならない」
- 「海外や遠方に住む家族が帰国・来日するのを待ってから葬儀を行いたい」
ドライアイスによる保冷が不要になるため、ご遺体が凍ってしまったり、ドライアイスの交換に追われたりする心配もありません。
4. 闘病や事故によるお体の変化を修復できる
長期間の点滴によるむくみ、病気による腹水、あるいは不慮の事故によるお体の損傷なども、エンバーミングの技術で可能な限り修復します。ご遺族が「お顔を見るのが辛い」と感じるような状態を改善し、穏やかなご対面を実現します。
5. 海外への搬送や遠方での葬儀が可能になる
故郷が遠方である場合や、故人様を母国へ搬送して埋葬する場合、エンバーミングは法的な手続き(空輸など)においても必須の条件となることがほとんどです。
エンバーミングの費用相場と内訳
エンバーミングを検討する上で、最も気になるのが費用です。
費用の目安は15万円~25万円
エンバーミングの費用相場は、一般的に15万円~25万円程度です。これは、葬儀費用一式とは別にかかる「オプション費用」となります。
多くの葬儀社では、基本的な処置をパッケージ料金として設定しています。
費用に含まれる主なサービス内容
基本的なパッケージ料金には、以下の内容が含まれていることが一般的です。
- ご遺体の搬送費(安置場所から処置施設まで)
- ご遺体の消毒・防腐・殺菌処置
- ご遺体の修復(お顔や損傷部分の修復)
- 洗髪、お着替え、メイク
- 処置後の搬送費(処置施設からご自宅や斎場まで)
【注意】追加費用が発生するケース
以下のような場合、基本料金とは別に追加費用が発生することがあります。
- ご遺体の状態が著しく変化している場合(例:重度の損傷、長期間の経過)
- 深夜や早朝の搬送
- 搬送距離が非常に長い場合
- 特別な衣装やメイクを希望される場合
依頼する際は、必ず事前に総額の見積もりをもらい、費用に含まれる内容を細かく確認することが重要です。
依頼からご対面まで|エンバーミングの具体的な流れ(4ステップ)
エンバーミングはどのように行われるのでしょうか。ご依頼から処置後のご対面までの一般的な流れを解説します。
ステップ1:葬儀社への依頼とご遺体の搬送
エンバーミングを希望する場合、まずは葬儀社にその旨を伝えます。(エンバーミングはどこの葬儀社でも行えるわけではなく、専門施設と提携している必要があります)。
葬儀社スタッフが、ご遺体を病院やご自宅から専用の処置施設(エンバーミングセンター)へ寝台車で搬送します。
ステップ2:エンバーミング処置の実施(専門施設にて)
エンバーミングセンターに到着後、エンバーマーが処置を開始します。
ご遺族の希望(生前の写真など)を参考にしながら、全身の消毒、洗浄、防腐液の注入などを行います。処置にかかる時間は、ご遺体の状態にもよりますが、通常3~5時間程度です。
ステップ3:ご遺体の修復・着付け・メイク
保全処置が終わると、次に修復と化粧の工程に入ります。
生前のお写真などを参考に、お顔の表情を整え、必要に応じて傷や損傷の修復を行います。その後、ご希望の衣装(生前お気に入りだった服や、仏衣など)へお着替えさせ、自然な血色に見えるようメイクを施します。
ステップ4:ご自宅や式場への搬送・ご対面
全ての処置が完了したら、故人様をご自宅や葬儀式場など、ご希望の安置場所へお送りします。この時点で、ご遺族は安心して故人様とご対面いただけます。
依頼する前に知っておきたい注意点・デメリット
メリットの多いエンバーミングですが、依頼する前に知っておくべき注意点もあります。
1. 一度処置すると元に戻せない(外科的処置を含む)
エンバーミングは、ご遺体に防腐液を注入するなど、小規模な外科的処置を含みます。一度処置を施すと、ご遺体を元の状態に戻すことはできません。ご家族やご親族間で十分に話し合い、合意の上で依頼することが大切です。
2. 費用が別途(葬儀費用とは別に)発生する
前述の通り、エンバーミングは葬儀費用とは別に15万円以上の費用が発生します。葬儀全体の予算を圧迫する可能性もあるため、必要性やメリットと費用のバランスを考えて判断する必要があります。
3. 処置に時間が必要
ご遺体を専門施設へ搬送し、処置を行うため、最低でも数時間(搬送時間を含むと半日程度)は故人様と会えない時間が発生します。「一刻も早くそばにいたい」というお気持ちが強い場合は、その時間がもどかしく感じられるかもしれません。
エンバーミングに関するよくある質問(FAQ)
Q1. エンバーミングは必ず必要ですか?
A1. いいえ、必須ではありません。エンバーミングはあくまで選択肢の一つです。「葬儀まで日数が空いてしまう」「故人の顔をきれいにしたい」といった特定のニーズがある場合に推奨されます。
Q2. 宗教的に問題はありませんか?
A2. 多くの主要な宗教(仏教、キリスト教など)では、エンバーミングを禁止する教義はありません。ただし、一部の宗派や考え方によっては推奨されない場合もあるため、菩提寺や宗教者にご相談いただくとより安心です。
Q3. 処置にはどれくらい時間がかかりますか?
A3. ご遺体の状態によりますが、処置自体にかかる時間は約3時間から5時間が目安です。ご遺体のお預かりからご自宅や斎場へお戻しするまでの時間としては、半日~1日程度を見ておくと良いでしょう。
Q4. どこで処置を行うのですか?
A4. 法律で定められた基準を満たす、専用の「エンバーミングセンター」や「保全室」と呼ばれる施設で行われます。ご自宅や葬儀式場で処置を行うことはできません。
Q5. ドライアイスは本当に不要になりますか?
A5. はい、原則として不要になります。エンバーミングによってご遺体の内部から保全処置が施されるため、ドライアイスで外部から冷却する必要がなくなります。お体に触れても冷たくなく、結露で布団が濡れるといった心配もありません。
まとめ:エンバーミングとは故人とのお別れを豊かにする選択肢
この記事では、ご遺体を長期間衛生的に保存し、生前の安らかなお姿に近づける「エンバーミング(遺体衛生保全)」について、その費用相場、具体的な流れ、メリットとデメリットを詳しく解説しました 。
エンバーミングは、故人様とゆっくりお別れする時間を確保したい場合や、闘病などでお顔の様子が変わってしまった際に、穏やかな表情を取り戻すことを目的として行われます 。
処置により、感染症のリスクなく安心してお体に触れることができ、ご遺族が心穏やかに最後の時を過ごせるという大きな利点があります 。
一方で、費用相場が約15万円から25万円と高額であること、専門施設での処置のため一時的に故人様と離れる必要があること、そしてご遺体にメスを入れるという側面も理解しておく必要があります 。
エンバーミングは全ての場合で必須ではありませんが、故人様らしいお姿で安らかにお見送りをしたいと願うご遺族にとって、後悔のないお別れを実現するための有力な選択肢の一つと言えるでしょう 。
